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『人新世の「資本論」』

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『人新世の「資本論」』 斎藤幸平 著 集英社新書2020☆☆☆☆

 大変興味深く読めました。帰省している息子に薦められて読みました。

章をまとめると

 はじめに 「SDGsは「大衆のアヘンである」

 第1章 気候変動と帝国的生活様式

 第2章 気候ケインズ主義の限界

  この章で、グリーンニューディールやSDGsも結局は資本主義の成長を止められないと指摘します。

 第3章 資本主義システムでの脱成長を撃つ

 第4章 「人新世」のマルクス

 第5章 加速主義という現実逃避

 第6章 欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム

 第7章 脱成長コミュニズムが世界を救う

 第8章 気候正義という「梃子」

 この本の最大の売りは、マルクスの思想が、共産党宣言の1848年と、資本論1860年代、そして晩年のロシアのミール共同体などを研究した時期で変遷していて、初期には成長を前提とした生産力至上主義だったのもが中期にはエコ社会主義に変化し、晩年には脱成長コミュニズムに変化していたと主張する点です。その変化にはエンゲルスですら気付いていいなかったそうですが。そして、晩年のマルクスの脱成長コミュニズムこそが、現代を救う方法だと述べています。

 この部分がこの本の売りであるのかもしれないけれど、私は逆にこのマルクスと結び付けた第4章を抜かした方がこの本は誤解されずに理解される気もしました。

 もう一つ、この本では、資本主義に必然的な市場機構そのものについて、ほとんど記述が無く、そこにも甘さを感じました。

 それでも、中途半端な環境保護運動の限界をこの本は明確に示してくれております。また、資本主義が人工的希少性を生み出し、それが<コモン>を崩壊させてきたという視点も、大変わかりやすかったです。この具体例が2020年のコロナについても示されています。

 ではどうしたらよいか。その答えが「自己抑制」なのは、そうなるしかないよなと少しがっかりします。でも、特に具体例として出てくるバルセロナの実践や、いくつか紹介されている自治管理の例が私を勇気づけてくれました。

 ちょっと無理のある部分はあるけれど、多くの人に読んでもらいたい本だと思いました。